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こいつぁ春から縁起がいいわえ

料理

「春に三日の晴れ無し」とはよくいったもので、全国的にこのところのお天気はあまり安定しませんね。

もうひとつ、「春北風はるきたかぜ冬南ふゆみなみいつも東は常降じょうぶりの雨」

という諺もあるそうですが、意味は、「春の北風、冬の南風、また四季を通して東風が吹くときは雨が降る前兆だということ」なのだそうです。

そこでふと思ったのが、(この諺の意味とは異なりますが)春に吹く風を「東風こち」と言いますよね。

なるほど、それでは春に雨が多いのも納得…と思ったものです。

一雨ごとの…とも言いますし、いよいよ暖かくなってきますね。

 

さて、そんなとみたの献立も、桜満載、春を喜ぶ献立に変わっておりますのでご紹介です。

前菜で見た目に可愛らしいのは「桜蒸し」でしょうか。

お馴染み桜餅と似ていますが、桜色に仕立てた道明寺粉にはお魚が包んであります。

小ぶりで食べやすいサイズにしたのは勿論のこと、とろりとした銀あんをかけているので、喉通りも良いですよ。

また、花冷えする季節でもありますから、温かい前菜というのもまだまだ嬉しい頃かと思います。

 

 

それからこの時期、目にするようになるのが「白魚」。

鎌倉辺りの有名な丼を浮かべた方もいらっしゃるかもしれませんが、残念ながらしらすと白魚は違いますよ。

しらすはイワシなどの稚魚の総称ですが、白魚は白魚という魚で、産卵の為に川に上ってくる春が旬になっています。(因みにしらすの旬は秋もあります。)

混同されがちな魚にもう一つ、シロウオというのもありますが、こちらは踊り食いが有名ですね。

漢字では素魚と書くのですが、音の響きが近いのと、こちらも旬が春なので間違われやすいお魚です。

 

今回話題にしたい白魚は、「白魚のような指」と女性の綺麗な手を形容する言葉に使われるほど、その細く透明で白い姿が特徴の、春の季語としてもよく歌に詠まれる貴重な魚です。

かの有名な松尾芭蕉も「明ぼのやしら魚しろきこと一寸」と詠んでいます。

また歌舞伎「三人吉三巴白波さんにんきちさともえのしらなみ(原題:三人吉三廓初買さんにんきちさくるわのはつがい)」のお嬢吉三の「月も朧に白魚の篝も霞む…」で始まる名台詞は、歌舞伎に馴染みの無い方でも一度は聞いたことがあるかもしれません。(有名な部分の台詞を当記事の最後に載せておきますね☆)

江戸時代、舟を浮かべて篝火を焚く隅田川の白魚漁は有名で、春の風物詩として江戸っ子たちに親しまれていました。

また、かの家康公も、白魚の透けて見える脳の形が葵の御紋に似ているとして(本当でしょうか!?)、江戸で白魚がとれるのは吉兆だと大喜び!

白魚漁師たちは特別待遇を受け、「御本丸御用」と朱書きした箱でお城に運んだと言われています。

当時の江戸っ子たちも、お嬢吉三の名台詞に酔いながら、白魚を肴に一杯楽しんだりしたのでしょうか。

 

かくいう現代も、知らない人は居ないのでは?と言えるほど有名な「春眠暁を覚えず…」「春はあけぼの…」など、日本人の多くが不思議と文芸と結びつけて感じることの多いこの季節。

四季の中でも、独特な空気を持っているように思えます。

この時期特有の食材は、みな瑞々しさの中にどこか儚くほろ苦い印象を受けますが、人々の生活も、どこか似た印象を感じずにはいられません。

ぜひとみたにいらした際は、当時の江戸っ子たちを真似して、浮世を忘れてちょっと粋な楽しみを味わっていただければと思います。

 

最後に、お嬢吉三の名台詞をどうぞ。

「月もおぼろに白魚の かがりかすむ春の空

冷てえ風もほろ酔いに 心持よくうかうかと

浮かれがらすのただ一羽 ねぐらへけぇる川端で

さおの雫か濡れ手であわ

思いがけなく手にる百両

 

ほんに今夜は節分か 西の海より川の中

落ちた夜鷹は厄落とし 豆だくさんに一文いちもん

銭と違って金包かねづつみ こいつぁ春から

縁起がいいわえ」

 

 

<文:有桂>