千秋楽
料理
秋の日は釣瓶落としと言いますが、確かに最近、日暮れも随分早くなったような気がしますね。
体調管理の難しい時でもありますが、皆さまはお変わりございませんか?
さて、先日より献立が変わっておりますので、いつものように前菜の写真と共にご紹介いたします。
ついに秋も最後、第三弾となりました!
昔から秋の歌が多く詠まれているように、秋は期間が短いにも関わらず、人々を魅了し様々な意欲を掻き立ててくれますよね。
読書の秋にスポーツの秋、芸術の秋や食欲の秋!
板前さんにとっても、食材豊かで華もあるこの時期は、どうやら腕が鳴るようです☆
秋の実りの恩恵に浴する、「完熟」や「熟成」といった言葉がぴったりの、ぎゅっと濃縮されたコースとなっております。
おそらく前菜で一番インパクトが強いのは、「林檎の豆乳焼き」でしょうか。
前菜に温かい料理が出ると、嬉しい季節になりましたね。
実はこの「林檎」、江戸時代までは夏が旬だったそうで!
というのも、現在の林檎文化は、西洋林檎が入ってきてからのものなので、単純に林檎の種類が違うのです。
その為、季語としての「林檎」は、時代と共に夏の季語から秋の季語へと意味が変わりました。
旧暦が基準の季語は多いようですが、将来「林檎」のように変化するものも、今後増えていくかもしれませんね。
それから、一見地味な「鶏松風」。
もしかしたらおせちに入っているイメージが強く、新年を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、元を辿ると「松風」という古典文芸が由来で、こちらも舞台は秋。
ストーリー的には、少々物悲しいパターンが多いですが、“秋風”のことを“律の風”とも言うように、この時期は昔から、少々感傷的な気分になりやすいのかもしれません。
(因みに、律の風の“律”は律音階の“律”からきていて、中国から伝わった呂音階が、次第に日本人に馴染み深い音に改革されて出来ました。代表曲はかの有名な「君が代」です。呂音階も律音階も基本的に5音で、現在の主流である7音ではありませんが、ざっくり7音に当てはめると“ミ”と“ファ”が違うだけで後は同じなんですね。その微妙な違いを上手に弾き分けるのは難しく、当時の奏者たちに大混乱をもたらした為、「呂律が回らない」の語源にもなっています。…と、話が脱線してしまいましたが、昔の人は、その微妙な音感の違いに、哀愁や郷愁など、どこか秋っぽさを感じたのかもしれません。)
そして、今回のタイトル「千秋楽」にも少し触れておきますね☆
大相撲や歌舞伎などで最終日を表す言葉としてよく聞きますが(歌舞伎では火の字を避けて「千穐楽」と表記することも多いですが)、よく見るとここにも“秋”が隠れています。
千秋楽の語源も諸説あるのですが、特に有力なのが雅楽由来の説で、最後に「千秋楽」という曲が演奏されることが多かったからなのだそう。
この千秋楽という曲は、ある時代の天皇が、即位して初めて行う“穀物の収穫を神に感謝する儀礼”を非常に重要視し、その為に、当時の笛の名手に新しく作らせた曲といわれています。
もうお察しの方もいらっしゃるかもしれませんが、こちらの「千秋楽」も、そう、“律”なのです。
海は豊漁、山は豊作。たわわな稲に、熟した果実。
錦織り成し締め括る、これもひとつの千秋楽と、表してみても良いかもしれない…
そんな思いも、ふわっと感じていただけたら嬉しいです。
<文:有桂>