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菊の雫

料理


前菜

 

そこはかとなく秋の気配が漂う今日この頃、皆さまいかがお過ごしですか?

今年の夏は酷暑に大雨と、お疲れの出ている方も多いのではないでしょうか。

 

残暑が厳しいという予報もありますが、来る秋に期待し、新しい献立です。

現代日本ではあまり意識されていませんが、9月9日は五節句の一つ「重陽の節句」です。

別名「菊の節句」とあって、昔は「きくえん」などの催しと共に盛大に行われていました。

少し堅苦しいお話になってしまいますが、節句の始まりは陰陽思想に基きます。

奇数は陽、偶数は陰と考えられ、元々奇数が重なる日は陽の気が強過ぎるため不吉とされていました。

それを祓う行事が節句です。

桃の節句も端午の節句も、元はお祓い行事だったんですね。

そう言われてみると…、結構しっくりくることが多いと思いませんか?

そしてこの9月9日は、陽の数の最大の数が重なる日ですから、(正月は特例として)最も重要視されていました。

次第に、陽の重なりを吉祥と捉え祝い事になっていきましたが、日本の節句料理に厄除け・厄払い・魔除け・邪気払いなどの意味が多く含まれるのはそういう一因があるからです。

この重陽の節句で欠かせない「菊」もまた、生命力の象徴であり、その豊かな香りが邪気を払ってくれると考えられています。

 

 

菊の宴では、菊の花を浸した菊酒を飲み、健康と長寿を願います。

今でいう菊の品評会のようなものも行われていたらしいですよ。

また重陽前夜には、「綿わた」といって菊の花に真綿を乗せて、翌朝菊の露と香りを含んだその綿で体を拭い、健康や不老長寿を願っていました。

女性の方はそれで顔を拭うと美人になるとかならないとか…☆

この時期和菓子屋さんに行くと、着せ綿(もしくは被綿)という練り切りが多く置いてあるのも、この菊の花に真綿を乗せた風情を表現しているんですね。

菊の花の色によって乗せる綿の色が決まっていますから、存外カラフルなのも、今時ならSNS映えする一つかもしれません☆

日本は世界でも珍しい菊を食す文化のある国ですが、それでもこの「菊の露」その一滴に思いを寄せ、風雅を愛する感性を、これからも受け継ぎ磨いていきたいものです。

 

重陽が過ぎればお月見が待っています。

咲きこぼれる萩の花とススキを背景に、月を映したお酒を嗜み、虫の声を聞く…

忙しい現代では中々そのような時間をとることは難しいのですが、この秋は皆さまも、そういうひと時を作ってみてはいかがでしょうか。

 

<文:有桂>